17.03 – UPC : Unified Patent Court – JAP

 はじめに

2023年6月1日は、欧州特許の歴史において重要な日となりました。この日に、欧州単一特許と統一特許裁判所(Unified Patent Court:UPC)が同時に誕生しました。欧州連合(EU)の17の加盟国に共通するこの新しい産業財産権と新しい国際特許裁判所は、欧州の特許事情、特に特許訴訟に革命をもたらすでしょう。

この「法的革命」に備え、統一特許裁判所(UPC)の出廷資格を持つ当職が、統一効果特許権と統一特許裁判所(UPC)の主な側面を以下にご紹介いたします。

より詳細な見解については、当事務所の「統一特許管轄」のフランス語および英語のページ、または統一特許裁判所(UPC)の公式ウェブサイトをご参照ください。

「統一特許」(Unitary Patent : UP)とは何か?

特許は、特定の国において、一定の期間、第三者がその発明を商業目的で利用することや、特許権の許諾なしに禁止する権利を、特許権者に与える法的権利です。欧州特許条約(European Patent Convention:EPC)は、27のEU加盟国だけでなく、他の多くの国(英国、スイス、トルコなど)も批准しており、単一の出願に基づいて特許を付与するための欧州単一手続を確立し、EPC締約国における発明の保護を促進・強化するために統一的な実体法を制定しました。

欧州特許は、欧州特許庁(European Patent Office: EPO、本部はミュンヘン)によって付与され、その特許権者は、欧州特許が付与された各締約国において、その国で付与される国内特許と同等の権利を有しています。

しかし、欧州特許にはいくつかの欠点があります。第一に、付与された欧州特許は、発効する各国において個別に有効性を確認し、効力を維持しなければならず、これは複雑で費用のかかるプロセスであるという点です。第二に、同一の欧州特許がEPCの複数の締約国で侵害された場合、その特許権者は、各加盟国において並行して手続を開始しなければなりません。そのため、欧州特許の侵害や有効性に関する各国の裁判所の判断が食い違うリスクがあることは明白です。

このような欠点を克服するため、EU加盟国数カ国は、いわゆる単一特許(UP)と統一特許裁判所(UPC)の創設に合意し、2023年6月1日に発効しました。

欧州単一特許(UPE)は、「単一効力のある欧州特許」、すなわち、EPCが定めた規則と手続に従ってEPOによって付与された欧州特許であり、付与後、保有者が出願することを決定した場合、参加加盟国の領域に対して単一効力が付与されます。これは保有者に提供されるオプションです。

したがって、単一特許(UP)の主な利点は、集中化された付与前手続きを、同様に集中化された付与後手続きで補完し、EPOが単一特許の管理、すなわち、単一特許の取得、効力の維持、管理のためのワンストップオフィスとして機能することです。

単一特許(UP)は、広範かつ統一された領域での保護を提供し、企業にとって有利なコスト水準も提供します。UPは、簡素化され、コストが削減される一方で、より優れた価値を提供すると言えます。

さらに、UPは、統一的効果を有する参加加盟国の全領域において、第三者が本特許の保護対象となる行為を行うことを防止する権利を保有者に付与します。

統一特許裁判所(Unified Patent Court:UPC)とは何か?

UPの創設と並行して、EU加盟25カ国は2013年2月19日、統一特許裁判所に関する協定(UPC協定)に署名しました。このUPC協定により、UP及び「古典的な」欧州特許に対する侵害や有効性に関して裁定する新しい国際裁判所・統一特許裁判所(UPC)が設立されました。

UPCは2023年6月1日に運用を開始しました。UPCは、UPC協定締結国の管轄区域に属する特許法を専門とする判事と、技術資格を有する判事で構成されます。

また、UPCは、欧州特許及びUPに関する侵害訴訟および無効訴訟について、専属管轄権を有します。

現在、欧州特許の侵害と有効性に関する訴訟は、EPC加盟国の国内司法局と行政局が判断していますが、UPCの設立は、特許権者にとっても、競合他社の特許を無効にしたい企業にとっても、多くの利点をもたらすことになります。

UPCには、主に以下のような利点が期待されます。
  • 欧州特許を侵害者から保護するために、さまざまな国で訴訟を起こす必要がなくなる
  • UPと欧州特許の侵害と有効性に関する調和された判例法を確立することにより、法的確実性が高まる
  • より簡素で迅速かつ効果的な法的手続きを提案する
  • 付与される権利の範囲と制限、および侵害時の救済措置に関する実質的な特許法の調和を図る
  • UPや従来の欧州特許の保有者が、UPC協定締結国全域で効力を有する決定や差止命令を取得できるようにすることで、UPや従来の欧州特許のコンプライアンスを向上させる
  • 競合他社に、UPC協定締結国全域で効力を有する、UPおよび従来の欧州特許の無効を求める集中訴訟を提起する可能性を提供する

UPCは、現在UPC協定が発効している17のEU加盟国に共通する裁判所です。UPC協定を既に署名している他の7カ国においても批准されることでしょう。また、は、すでに署名している他の7つのEU加盟国が批准することができる。さらに、他のすべてのEU加盟国(すなわちポーランド、スペイン、クロアチア)も、この協定にいつでも参加する可能性があります。

UPCの構成

UPCは、第一審裁判所、控訴裁判所及び書記官室から構成されます。

第一審裁判所は以下のように構成されています。

  •  中央局:本局はパリ、特定の技術分野を担当するミュンヘンの第二局、およびミラノの第三局(第三局は2024年7月まで稼働しない予定)
  • 地方局(各加盟国に1つから最大4つまで)

例:オーストリアはウィーンに1カ所、デンマークはコペンハーゲンに1カ所、ドイツはミュンヘン、デュッセルドルフ、ハンブルク、マンハイムに4カ所

  • 地域局:複数の締約国が管轄を集中したい場合。現在、地域局はスウェーデンとバルト三国を管轄する北欧・バルト地域局のみで、ストックホルムを拠点としている。

控訴裁判所はルクセンブルクにあり、書記官室もルクセンブルクにあります。

第一審裁判所は3人の多国籍の裁判官で構成されます。控訴裁判所は5人の多国籍の裁判官で構成されます。

UPCとパリ

パリにはUPC第一審裁判所の中央局があり、この中央局は地方局や地域局に比べて拡大された権限を有しています。なお、パリには地方局もあります。

UPCの中央局は、例えば、次のようなケースの場合に専属管轄権を有します。

  • 被侵害者である原告が日本または韓国に登録事務所を有し、被告企業が欧州に事業所を有しない場合、UP侵害訴訟を審理する
  • UP無効の本案訴訟を審理する
  • UPの非侵害宣言を求める本案訴訟を審理する

さらに、UPCの地方局または地域局(例えばウィーン)において侵害訴訟を提起された被告が、欧州特許またはUPの無効を主張する反訴を提起する場合、当該地方局または地域局は、当事者の審理後、以下のいずれかの選択肢を有します。

  • 侵害訴訟と無効審判の両方について判決を下す(技術裁判官を任命する)
  • 無効の反訴を中央局に移送し、侵害訴訟を一時停止又は判決する
  • 当事者の合意の上、全体(侵害+無効)についての判決のために事件を中央局に移送する
UPCの管轄権とオプトアウト

締約国におけるUPCの管轄権は以下のようにまとめることができます。

原則として、すべてのUPと古典的欧州特許はUCPの管轄に服します。

ただし、2023年6月1日から7年間(最終的には1回更新される可能性があります。)は以下のような経過措置が取られます。

  • 古典的欧州特許の侵害または無効を求める訴訟については、国内裁判所または国内行政局が引き続き管轄権を有する。言い換えれば、この期間中、欧州特許に関する訴訟は、UPCと各国裁判所が同時に管轄を有することになる。特許権者は欧州特許を主張することができ、第三者は、UCPまたは各国裁判所において、欧州特許を攻撃することができることになる
  • 古典的欧州特許の特許権者および出願人は、「オプトアウト」オプションを行使することにより、UPCの管轄権を放棄することができる
  • オプトアウトを行使することにより、古典的欧州特許はUCPの管轄外となる
  • オプトアウトは、いつでも(すなわち、経過措置期間終了後であっても)撤回することができる。ただし、当該特許に関して国内裁判所に訴訟が提起されていないことが条件となる。一般に「オプトイン」と呼ばれるオプションを行使された場合、取り消すことができない
  • UPCに参加していないEPC加盟国では、従来の欧州特許は引き続き国内裁判所の専属的管轄権に服する。
オプトアウトについて

オプトアウトの行使にはいくつかの条件があります。

  • オプトアウトは、特許および公開された欧州特許出願に対してのみ可能である。UPをオプトアウトの対象とすることはできない。オプトアウトは、欧州特許で指定されたすべての参加国に適用される
  • オプトアウトは、UPCに既に訴訟が提起されている場合には、もはや不可能である
  • オプトアウトはいつでも請求できるが、最初の7年間の経過措置期間が終了する1箇月前までとする
  • オプトアウトはUPC書記官室に請求する。オプトアウトの申告に際して、UPCに支払う事務手数料はない。この申請は困難なため、弁護士や欧州特許弁理士などの認定代理人を通すことが望ましい
  • 欧州特許(または特許出願)を複数の人が保有している場合、すべての保有者(または出願人)が同時にオプトアウトの申出をしなければならない。差もなくば、オプトアウトは無効となる
  • 欧州特許(または特許出願)は、UPCの管轄(経過措置期間終了後は専属管轄)となる。これを「オプトイン」という。その後、新たにオプトアウトすることはできなくなる
  • オプトアウトの要請は、それが書記官室によって登録簿に記載された時点で効力を発する。オプトアウトが撤回されない限り、オプトアウトは欧州特許の保護期間を通じて効力を有する。言い換えれば、7年間の経過措置期間が終了した後も有効
オプトアウトに関する統計

2023年7月2日にクワーズ特許ブログ(https://patentblog.kluweriplaw.com/2023/07/02/upc-opt-outs-statistics-and-trends-one-month-in/)に掲載された記事によると、2023年6月30日までに、535,152件の欧州特許および特許出願がオプトアウト宣言の対象となりました。

UPCの開設以来、オプトアウトの件数は1週間あたり約2,700件の出願と7,600件の特許で安定しています。これは、毎週3,700件の欧州特許出願がEPCに提出され、毎週1,500件の欧州特許がEPCから付与されていることと比較すると、非常に興味深いことであります。

2023年6月30日の時点で、アジアの2つの企業が、もっとも多くのオプトアウトを行った企業のトップ5に名前を連ねたことは、非常に興味深いと言えます。 この企業の一つ目は、ファーウェイ・テクノロジーズ(5384件の欧州特許または欧州特許出願にオプトアウトが適用され、この企業がトップ5の第一位になっています。)と、サムスン電子(3939件の欧州特許または欧州特許出願にオプトアウトが適用され、この企業がトップ5の第5位となっています。)です。

さらに、このブログによれば、オプトアウト出願を特許権者の出身国別に分類すると、日本が10.8%、韓国が3.4%、中国が3.2%となっています。

したがって、現在、多くのアジア企業は、欧州特許の全部または一部をUPCの管轄から除外することを好んでいるように見えます。

UPCに関する当事務所のサービス
  • 既に付与されている欧州特許の保有者または欧州特許の出願人に対し、特許および特許出願のユニタリー効果をEPOに申請することに関心があるかどうかを判断するための法的助言
  • 付与された欧州特許または複数の権利者による特許出願の場合、ユニタリー効果をどのように管理し、取得するかを決定するためのクライアントの契約書の調査
  • 提携弁理士による、クライアントの欧州特許および欧州特許出願のポートフォリオの分析、ならびにオプトアウトを申請する価値がある特許および特許出願を特定するための戦略的アドバイス
  • クライアントに代わってEPOにユニタリー効果を申請し、監視する
  • クライアントに代わって、UPCに対するオプトアウト請求の提出および監視
  • オプトアウトの対象となった特許または特許出願の権利者に代わり、UPCに対する取下げ宣言の提出および監視
  • UPCにおける法的戦略の策定
  • 侵害訴訟、無効本訴、無効反訴、非侵害宣言訴訟など、UPCにおける原告または被告としてのクライアントの代理業務。

この点で、当事務所が訴訟専門弁護士であること、パリ弁護士会の会員であること、UPC中央局およびフランス地方局のパリ本部の近くに位置していること、 この2つの支部に任命された3人のフランス人裁判官(中央支部に1人、地方支部に2人)は、私たちがよく出廷するパリ第一審裁判所の裁判官を務めたことがあるという事実が、私たちの事務所に貴重な利点を与え、それをクライアントの皆様にお伝えしたいと願っています。

当事務所は、すべての準備書面を作成し、フランス語と英語の両方で弁論することができます。中央局での訴訟では、当該特許が付与された言語が使用されます。

最後に、当事務所は、特許法を専門とする他の欧州国籍の弁護士と緊密な関係にあるため、UPCのどの地方局(ドイツ地方局、オーストリア地方局など)においても、クライアントのために侵害差止訴訟を行うことができます。

例えば、ドイツとイタリアで同一人物による侵害行為があった場合、特許権者は、侵害者に対して、4つのドイツ地方局のいずれかに訴訟を提起するか、イタリア地方局に訴訟を提起するかを選択することができます。ただし、いずれの場合も、当該地方局が下した判決は、17の加盟国すべてで効力を持つことになります。